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2009/5/3 朝日新聞      社説  憲法記念日に


 憲法記念日を迎えた今日、貧困、人権、平和を考えてみる。
 海の向こうの貧困問題に取り組んできた人々は今、自らの足元に目を向け始めている。むろん、途上国の貧困と、世界第2位の経済大国の豊かさの中で起きる様々な現象を同一には論じられない。だが、人々の明日の暮らしが脅かされて、教育や医療の機会を奪われる子どもも出てきた。この状況を何と表現すればいいのか。やはり「貧困」という以外にない。この日本にも当たり前の人権を侵されている人々が増えているのだ。豊かな社会全体の足場を崩しかねない危うさが、そこにある。
 かつての日本に、もっとひどい「貧困」の時代があった。昭和初期。日本でも経済が大打撃を受け、都市には失業者があふれた。そうした社会不安の中に政治テロや軍部の台頭が重なり、日本は戦争と破滅へ突き進んでいく。
 この過去を二度と繰り返したくない。繰り返してはいけない。日本国憲法には、戦争をくぐり抜けた国民の思いが色濃く織り込まれている。「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」。憲法25条のこの規定は、連合国軍総司令部(GHQ)の草案にもなかったものだ。当時の欧米の憲法にもあまりない先進的な人権規定だった。多くの国民がこうした国家像を歓迎したのは当然だろう。日本人は懸命に働き「一億総中流」と呼ばれる社会を築き上げた。
 その中流社会が今、崩れかけている。その先に何が待ち受けているのか。漠然とした不安が広がっている。右肩上がりの経済成長が続いていた間、国民はほとんど憲法25条を意識することなしに生きてきた。そんな幸福な時代が過ぎ、そこに正面から向き合わねばならない時が来たということなのだろう。
 転機を迎えているのは日本だけではない。世界の戦後秩序そのものが大きく転換しようとしている。そんな中で、より確かな明日を展望するために、日本と世界の大転換期に誕生した憲法は拠り所となろう。

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